朝日特許事務所では、発明抽出によりクライアントの新製品開発をサポートしています。ここでは、一つの事例として、株式会社ハーモテックの社長・岩坂 斉さんに朝日特許事務所との取り組みについてお話を伺います。聞き手は川﨑研二(特許業務法人朝日特許事務所・所長弁理士)です。









1.発明抽出会で技術者が元気に


川﨑 今日はよろしくお願いします。まず、改めてハーモテック社の事業概要を教えてください。


岩坂 主に半導体生産設備に使われるロボットの先端につく「ハンド」を開発、設計、販売しています。主力製品は「KUMADE」っていうんですが、半導体ウェハを保持する装置です。円筒室内で発生させた高速の旋回流の負圧によって非接触でウェハを保持することができます。実は今はちょっと違った業種でその技術を応用して、食品とか自動車とか、衣料とかに進出しようとしています。


川﨑 衣料にまで進出するのは知らなかったです。


岩坂 服って通気性があるから真空チャックだと保持できないんですよ。こういった異業種に関しては、製品を造るというよりは、まず知財を押さえるというスタンスでやっています。未来のための権利化ですね。未来の権利を作るためにお客さんからいろんな要望を聞いています。


川﨑 そのお話はまた後ほどじっくりお訊きします。我々とハーモテックとのお付き合いも長いですが、ハーモテックで発明抽出会を始めたのは何年前でしたっけ?


岩坂 どのくらいだろう。10年くらい前ですかね。


川﨑 あれ自体が早かったですよね、当時。ああいう取り組み自体が。


岩坂 あれはやっぱり、川﨑さんが投げかけてくれたのが大きかったです。うちの社員のアイデアを僕がそれまで「そんなもん特許にならねえだろうが」って無視してたんですけど、朝日さんでやってもらって特許になったということがあって。その反省もあってその後、社員のアイデアを聞くようになりました。



川﨑 発明抽出会を始めた初期の頃はそこまで活発じゃなかったというか、なんか遠慮がちなところがありましたけど、だんだんと発明抽出会も活発になってきましたよね。そうすると自然と社員も増えてきたっていうのがすごく面白いと思うんですけど。


岩坂 技術者が元気になる、会社の雰囲気が良くなる、新しい技術者が入ってくる、っていう流れなのかもしれません。やっぱり「認めてくれてる」とみんな元気になるんです。川﨑さんは意見を一つ一つ認めてくれるから、みんなうれしかったと思うんです。僕にはなかなかできないですけど(笑)。


岩坂 それにしても、自分の意見が認められたときの、彼らのエネルギーが出ること出ること。エネルギーが出るってのは知恵が出るってことですから。「おまえら知恵出せ」じゃなくて、自然と知恵が出る状態になっていく、ってことですよね。


川﨑 そうなんですよね。最初にある技術者の方が一言なにかアイデアを言って、それ自体がまったく未完成であったとしても「なんかあるな」と思って「いいですね」って訊いていくと、みなさんからアイデアが雪崩のように出てくるじゃないですか。あれが面白いところですね。


岩坂 この絵(*1)を見て、うちの会社もこのとおりだな、とすごく思いました。お客さんの言葉じゃなくて、お客さんの言葉の奥にある、言葉になる前の思いなんですよね。これをいかに拾いきれるか、っていうのがすごい重要で、そこが付加価値の違いになってくるって思うんです。


*1:


川﨑 本当にそうだと思います。多くの場合、みなさん出てきた言葉で考えて、その言葉が出てくる背景というのは考えない。だけどその背景にもっと本質的なアイデアが眠っていることが多いんです。そこを尋ねていくことが、我々が大切にしている発明抽出の中核です。


岩坂 分かります。発明抽出会をやっていると、例えば坂井さん(*2)が、これってこういうやつも入れたらどうですか、って板書を書きながら提案してくれるんですよね。僕たちが言ったことをそのまま文章にして、広い権利を取るっていうレベルじゃないんですよ。もう一段上にあって、寄り添って我々側にいるんですよね。そこはもう、次元が違いますよ。  *2:坂井俊郎。ハーモテック社担当の弁理士。


川﨑 提案をしているように見えるかもしれませんが、我々は発明者ではないので、ただアイデアが産み出される背景を尋ねているだけなんです。不思議なんですけど、我々だけじゃ、クライアントのみなさんがいなければ何も出てこないんですよ。みなさんがいるから、その雰囲気で言わされているところがあります。


岩坂 へえ。そういうことかぁ。エネルギーが循環してるみたいな感じですよね。


川﨑 我々がリードしているように見えるときでも、実は我々の方が引き込まれているんですよ。アイデアの深まりに。


岩坂 こういう風にやっていけば、付加価値はもっともっと膨らみますよね。でもこれを全部支えるのは、お客さんの現場の、困惑してドロドロして苦しかったりする、あそこにすべてがあるんです。あの中にあるものをすべて、僕らを通じて、朝日さんや大学とか全部の力を混ぜ合わせて、高い形に変えていけるんです。その商品をお客さんも使ってくれて喜んでくれる。




2.先取り知財


岩坂 冒頭に異業種参入の話をしましたけど、まずは展示会に出すんですね。今はロボット展的なものが多いのでそういうものにどんどん出展します。そうするといろんな業種の人が来てくれます。試作品で、こんなこともあんなこともできるってデモをすると、じゃあこうできないか?とか、そんなの○○だから使えないよとか、いろんな反応が返ってくるんです。同じような業界の人が同じような事を言ってるとか、キーワードが溜まっていきます。この業界にはこのキーワード、あの業界にはあのキーワード、全部の業種にわたっていつも言われてるのがこれ、そういうキーワードが積み重なっていくんです。それに対してどのように対応していくか。単にそのニーズに応えるモノ作りでは無く、集めた情報を知的財産に移し替えること、今はそこに注力しています。その後、モノを作るという形にしたいんです。


川﨑 知財が先なんですね。


岩坂 異業種に参入しようとすると、僕たちの知らないルールとか慣習とかがハードルになるんですよ。だったら、集めたニーズを熟成させて特許を取って、その特許をライセンスしたらいいんですよ。業界ごとに機械メーカーたくさんありますから、そういうところに僕らの特許をライセンスして、彼らがそれを使って製造して、僕らはロイヤリティをいただく。そうなると異業種に入るのも重くないんですよ。○○業界は難しいから、とかそんなのは無しで自由に、本当にお客さんの課題を解決することに専念できるんですよ。発想ももっと自由にできます。



川﨑 かと言って、モノをまったく造らないわけではなく、試作し、できるよ、っていうのを見せるわけですよね。そこまで造るのがすごい大事なんじゃないですか。


岩坂 これ重要なことはですね、異業種でも装置の立ち上げのときとか、トラブルが発生したときとか、僕らはアフターサービスで現場に立ち会います。ここに本当の意味があるんです。現場の雰囲気とか、どんな状況で使用されるのか、とか。肌で感じることがものすごい重要で。これが僕らの生命線です。ライセンスしている会社以上に、僕らは現場を知りたいんです。知らなきゃいけないんです。情報を取るために動き回るんです。その情報をまた知財に転換できれば、僕らは価値の高いサービスを提供しながら、さらに価値の高いものを生み出せるんです。僕らにとって半導体以外の異業種に関しては、そういうマーケティング活動というか、マーケティング知財活動というか、そこが大事で、もう製造は二の次ですね。


川﨑 先取り知財ですね。お客さんとのマーケティングが、知財の中身になっていくんですね。岩坂さんのそういう考え方って、10人、20人の会社では非常に珍しいですよね。


岩坂 僕、アウトプットは、社員をその気にさせれば出ると思うんですよ。モノを作って人の役に立ちたいという社員の気持ちさえあれば、僕は付加価値を高めるような仕組みを作って回していけばいいですよね。朝日さんや大学の力を借りながら、社員の思いを(知財に)変えていく。彼らはモノを作るのが喜びかもしれんないけど、僕はそれを知財に変えていく仕組み作りをしていけばいいんです。


川﨑 そのあたりの考え方は、岩坂さんと私と近いところがありますね。面白いです。




3.モノからコト、そして「意味」へ


川﨑 今後、朝日に期待することはありますか。


岩坂 いまは、開発の手法、開発のやり方自体を開発している段階なんだっていう気が僕はしているんです。その中でやっぱり、自分に持っていないプロフェッショナルな部分における、「こんな開発手法をチャレンジしたらどう?」とかそういう提案をバンバンして欲しいですね。もうハーモテックは実験の場でいいと僕は思っているので。チャレンジングなトライアンドエラーをする状況であって欲しい。だから少し「これって言っていいのかな」っていう、尖った感じの視点での提案を、どんどんとやっていただきたい。開発手法がもし本当に完成したら、僕はお返ししたいと思っています。お返ししたいというのは、中小零細で、こんなやり方で、こんなこともできるんだということを、公表しちゃっていいんじゃないかと思うんです。


川﨑 公表するとすぐに真似されちゃうかっていうと、そう簡単ではない。


岩坂 できないですよね。


川﨑 多くの会社に、こういうアイデア出しの手法があるんだ、そしてそれはかならず力になる、それを体験してもらうことが必要かと思います。



岩坂 KUMADEですが、技術的には非接触が売りなんですけど、お客さんの話を聞いていると、実は接触型の方がニーズがあるってわかったんですよね。それで段々と軌道修正していきました。


川﨑 技術的には非接触を追求していったんだけど、お客さんのニーズは非接触じゃなかったってことですね。


岩坂 何やってたんだ、って話ですよ。


川﨑 でもそこでちゃんとお客さんの声を聞いて軌道修正していったんですよね。自己否定してもいい柔軟な姿勢というか、こだわりすぎてはだめということで。


岩坂 こだわり続けられるんだったらこだわり続けてもいいですけど、そうすると会社がつぶれます。自分たちがこだわりを壊し続けないかぎり難しいです。


川﨑 今日のKUMADEの開発の話も、非接触で保持できるっていうアビリティの部分は変わってないわけです。そこはずっと固定のままで。ただ実際の製品が適用される場面では、接触する部分があってもいいんだという感じですね。


岩坂 基本的に、僕らはモノをつくるんじゃなくて、お客さんがしたいコトをやるんですよ。お客さんがしたいコトに対して僕らはどんな役に立てるのか。そのためには、自分たちの否定、自社製品の否定さえしてもいいってことです。例えば、やりたくはないですけど、競合他社の製品を紹介した方がいいんじゃないの、っていうこともあります。だってお客さんは問題を解決したいんです。解決できるコトを求めているんです。それってハーモテック製品である必要があるか?ってことなんです。違うんです。お客さんはハーモテック製品が必要なんじゃ無いんです。問題を解決したいんです。そのためには自社商品の否定でも何でもしてやれってことですよ。当たり前です。だって困っていることに全幅で応えたいっていうのと、困っていることに自分たちの技術の範囲で応えたいっていうのでは、広がりが全然違うじゃないですか。「自分たちの技術の範囲」なんてすごい小さいんです。お客さんがやりたいコトを満足するために何が必要かをフルレンジで考えることが必要です。


川﨑 コトの満足側に立つってことですね。


岩坂 そうです。だからモノがコトに変わって、こっから次のレンジっていうと、多分意味だと思うんですけど、コトの意味側に入っていったら、もう一個上の仕事や成果や付加価値が生まれはじめると思うんです。まだそのレンジまでは行ってませんけど、モノをコトに変えて、コトを意味にかえていく、まず今はコト。フルレンジです。我々は何のためにやりたいかっていうと、お客さんが困っていることを解決したい。


川﨑 コトを中心にし、コトの意味をこんどは探そうとしている。とにかくコトの側に立つってことですね。今日は色々多岐にわたるお話をありがとうございました。