
マピオン特許の記憶:ビジネスモデル特許、黎明期の挑戦
インターネットが社会に広がり始めた1990年代後半、日本の特許の世界にも新しい動きが生まれました。後に「マピオン特許」として知られることになる、斬新なビジネスモデルに関する発明の登場です。マピオン特許については、今日ではインターネット上でも様々なサイトで言及されています
このマピオン特許(特許2756483号)の権利化に、設立から間もなかった私たち朝日特許事務所が関わらせていただきました。

ビジネスモデル特許前夜:ソフトウェア特許への取り組み
当時はまだ『ビジネスモデル特許』という言葉自体が一般的ではなく、ソフトウェア関連発明の審査基準がようやく整い始めた、そんな時代でした。マピオン特許の出願は1995年7月、Microsoft Windows 95もまだ発売前で、インターネットの一般への普及も始まったばかりでした。多くの特許事務所にとっても、ソフトウェアという新しい分野の発明をどう扱うかは、手探りの状況だったのではないでしょうか。
1990年代は、まさにソフトウェアやインターネット技術が急速な発展を遂げ、それに伴い特許庁の審査基準も変化の途上にありました。そのような中、凸版印刷株式会社様(当時)の技術者の方から私たちにご相談いただいたのが、地図情報と広告を組み合わせるという、当時としては非常に新しい発想のアイデアでした。。
初めてそのアイデアをお聞きした際、これはソフトウェア関連発明として特許になり得ると直感しました。ポイントは、単なる抽象的なアイデアとしてではなく、ハードウェアと関連付けて発明を具体的に表現すること。そこで私たちは、サーバや記憶領域といった物理的な要素と結びつけ、ユーザにも見える形で、つまりサーバが提供する画面上で発明を表現するという方針で進めることをご提案しました。この「見える形での表現」という視点が、結果として、権利内容を明確にする上で有効に作用したと考えています。

マピオン特許の新規性と、審査における論点
マピオン特許の核となる技術は、オンライン地図上で広告を配信するという、現在では広く利用されている仕組みです。しかし、当時はその新規性が高く評価される一方で、特許取得に至るまでにはいくつかの論点がありました。
マピオン特許の審査過程では、いくつかの先行技術が挙げられました。特許査定は得たものの、異議申立を受けました。異議申立ではある引用発明との類似性が争点になりました。私たちは、審判官との面談に臨み、マピオン特許が持つ独自の価値について説明を重ねました。私たちがマピオン特許と引用発明との相違点を説明したところ、審判官の一人が議論の中で『それならば、その特許はこのサービスと同じではないか』と示してきたのが、まさに当時サービスが開始されていたマピオンそのものだったのです。それほど、マピオンの技術が時代にとって新しいものであったということでしょう。

私たち朝日特許事務所の取り組み:発明の本質を捉え、権利化へ
ソフトウェア関連発明は、単にアイデアを言葉で説明するだけでは、特許として成立させることは難しい場合があります。そのアイデアを実現するための具体的な技術的手段、つまりハードウェアとソフトウェアがどのように連携し、機能するのかを明確に、そして具体的に記述することが求められます。私たちは、お客様との打ち合わせを通じて、発明の構成要素を丁寧に分解し、それらが技術的にどのように関連し合って課題を解決するのかを整理し、発明の本質を深く理解することを心がけています。
私たちは、特許出願の段階から、権利内容が明確で、かつ他社による侵害があった場合にその事実を把握しやすい形で権利範囲を設定することを常に意識しています。マピオン特許で、ユーザ側の操作を直接的な権利範囲とせず、サーバ側の動作を中心に構成したのも、そうした考慮に基づいています。これは、多くのソフトウェア案件に携わる中で得た経験則の一つです。このような発明の多角的な分析と検討が、結果として強い権利の取得に繋がると考えています。
マピオン特許が示した可能性と、私たちの役割
マピオン特許の成立は、私たち朝日特許事務所にとって、ビジネスモデル関連発明という新しい分野での実績となり、その後、幸いにも多くの同様の案件に携わる機会をいただきました。マピオン特許は、まさに私たち朝日特許事務所が、まだ誰も歩んだことのない道であっても、お客様の発明の価値を信じて未知なる課題に挑戦していくという仕事への姿勢を象徴しているように思います。
マピオン特許の経験は、常に新しい技術動向に注意を払い、お客様の事業に貢献できる知財戦略をご提案していくという、私たちの事務所の基本的な姿勢を再確認する機会となりました。IT・ソフトウェア分野での経験を活かし、お客様の課題解決に貢献できるよう、今後も努めてまいります。