IT・ウェブサービス系スタートアップの、特許の狙いどころ。

IT系、ウェブサービス系の事業を立ち上げようとするスタートアップは、特許に関してどういう点に気を付ければよいのでしょうか。 気をつけるべき点はいくつかありますが、まずここでは自社のサービスを特許化できるのかどうか、できるとしたらどういう特許を狙えばいいのか、という点を説明します。
まず、特許にあまりなじみの無い方々にご理解いただきたいのは、特許っていうと何かものすごい技術的に難しい「発明」に対して与えられるものだ、と思っておられるかもしれませんが、全然そんなことはありません。皆さんが思っているほど「すごい」発明でなくても特許は取れたりします。 少し古い事例で恐縮ですが「マピオン特許」という特許があります(特許第2756483号)。業界では「日本のビジネスモデル特許第一号」とか、「日本のビジネスモデル特許の元祖」とか言われたりすることもあります。この特許、実は弊所で代理した案件です。 具体的に引用はしませんが、ものすごいざっくり言うとマピオン特許は、広告依頼者の端末において地図上の建物を指定しつつ入力された広告をサーバで保存し、他のユーザが自分の端末で地図を表示するときにその建物をクリックすると広告を表示する、というものです。 こうしていま見てみると「そんなの普通でしょ?」とか「これのどこがすごいの?」と思うかもしれません。でもマピオン特許が出願されたのは1995年7月14日で、世の中にはスマートフォンはおろかWindows95すら存在していませんでした。そんな時代に、コンピュータの地図上で広告を配信することを思いついたのですから、先見の明があったと言えるでしょう。こんなシンプルなアイデアでも特許になる可能性はあるのです(マピオンの事例は20年以上前の話ですが)。 一見シンプルで当たり前に思えるアイデアでも、よくよく検討してみると特許化の可能性はあるかもしれません。 特許化を目指す際に考えなければいけないのは、新サービスの何を特許として押さえるのか、という点です。 一番お薦めなのは、ソフトウェアのUIを特許で押さえてしますことです。UIも、ちょっとした小ネタみたいなもので特許が取れることがあります。例えばガイドのアイコンの表示位置を何かのパラメータで適応的に変化させたり、グラフの一部を強調表示したり、ウインドウのスクロール速度を変化させてみたり。有名なところではAppleのバウンスバック特許なんてのもあります。 UIは画面を見れば実施しているかどうかすぐ分かりますので、他社が侵害をしたことを特定するのが容易な場合が多いです。一方、サーバの内部処理を特許で押さえても、他社が似たサービスを実施したとしても、その特許を侵害しているのかどうか立証が難しい場合が少なくありません。 以前、弊所のクライアントである某スタートアップで実際にあったケースですが、そのクライアントのコア技術は高度な数学を駆使したアルゴリズムで、他社よりも高速な処理ができる点にありました。そのアルゴリズムを特許として記載すれば、おそらく特許は取れたと思います。しかし、そこを特許で押さえたとしても、他社が模倣をしてきたときにその特許が侵害されていることを立証するのは容易ではありません。他社がサーバでどんな処理をしているのかは基本的にはブラックボックスですから。 結局、侵害特定の容易性について議論した結果、そのクライアントはそのコア技術はクローズとすることに決めました。その代わり、UIとして目に見える部分での特許取得を目指し、アイデア出しのブレストを重ねて将来のサービスを見越して特許出願を作り上げました。その出願は無事、特許になっています。 スタートアップの皆さんは,是非、自社のサービスを特許で押さえられないか検討してみてください。

渡邉 浩

パートナー・弁理士。世界を変える仕事の片棒を担ぐのが夢。